エッジAIの成長に伴い増大するIP保護の必要性
多くの産業において、ネットワーク接続デバイスやモノのインターネット(IoT)がプロセスや運営などの多くの領域に進化をもたらしている今日、デジタルトランスフォーメーションという課題が、そういった多くの分野で急速に広がりつつあります。
これまでのネットワーク接続デバイスは、測定データを制御システムへ送信するための通信システムが組み込まれた単純なセンサーに過ぎませんでした。このようなシンプルなシステムでは、接続箇所の周辺に知的財産(IP)が使われることはほとんどなく、IP盗用のリスクも最小限に止まっていました。
しかし、遅延やセキュリティの問題に対処し、リアルタイムでのフィードバックや制御を可能にする必要性から、より多くの処理アクセラレータやニューラルネットワークアクセラレータがエッジデバイスやセンサーに組み込まれるようになりました。その結果、これらの機器はさらに高度な機能を備え、マイクロコントローラがより高い価値を持つようになりました。言い換えると、このことは、より多くのIPがエッジデバイスに搭載されるようになったことで、リスクにさらされるIPの価値が増大し、IPが盗み出された場合に企業やブランドが被る損害が極めて大きくなったことを意味します。
この課題の規模を知るために、市場リサーチ会社であるインターナショナルデーターコーポレイション(IDC)の調査データを見てみると、世界のエッジ人工知能(AI)プロセッサの出荷数は2019年中に3億4千10万台に達し、2023年までに15億台になると予想されています。主要サプライヤ各社が、IoTにおけるこの新しいコンピューティングパラダイムに対応したソリューションを開発しようと、エッジAIの問題に取り組んでいます。これは、かつてモバイルデバイスやバッテリ駆動型デバイスで高い処理能力を実現した汎用プロセッサやグラフィックプロセッサユニット(GPU)の域をはるかに超えています。
現在、多くのベンダーがAI用に最適化したプロセッサを扱っており、これには、ディスクリートアクセラレータを使用するものと、プロセッサにニューラルネットワークアクセラレータを組み込んだホストプロセッサの2つのタイプがあります。エッジAIプロセッサの応用分野としては、自動車の先進運転支援システム(ADAS)、ゲーミングシステム、スマートホーム、ビデオ監視などがあり、さらに産業オートメーション、医療機器、AR/VR機器、ロボット、ドローンなどの分野での使用が見込まれています。
このように、エッジAIの実装が増えるにつれて、エッジIoTデバイス内の小型MCUに組み込まれるIPの価値は日増しに大きくなっています。特に、各ベンダーが競争上の優位を確保するためにAIや非常に貴重なアルゴリズムを使用する場合は、このような傾向が顕著です。クラウドのロジックでさえ、エッジ方向へ移行しつつあります。
以上のような状況で、MCU上で実行されるソフトウェアの価値が非常に高くなってきていることから、このようなIPを保護することは不可欠となっています。
IARのソフトウェア開発ツールEmbedded Trustを利用すれば、開発段階で貴重なソフトウェアIPの保護を設計に効率的に組み入れることができます。必要な暗号化メカニズムがツールチェーンによって提供されるので、ファームウェア開発者は暗号化の専門知識を必要とせず、ソフトウェアと複雑なAIアルゴリズムの実装に注力することができます。
Embedded Trustのハイブリッド暗号化方式では、ソフトウェアの完全性と機密性が最新の暗号技術に基づいて確実に保護されるように、対称アルゴリズムと非対称アルゴリズムが組み合わされています。これらの重要要素の保護は使用可能なハードウェアのセキュリティに大きく関係しており、さらにハードウェアのセキュリティは、それを支えるSoC(システムオンチップ)のセキュリティに依存しています。